「……伏見さん?」


急に名前を呼ばれて返事ができずに呆然としていると相手がハッと我に返ったような顔をしたあとニコリと笑った

「…あ、ごめんなさい。ちょっと僕の上司に似ててですねぇ。さっき道明寺と狗犬とヤタガラスに似たような人らが入ってきたからまさかとは思ってたけど本当に伏見さんが出てくるなんて…あ、というか僕のこと見えるんですか?」

話しはじめると残念な奴だった。つーかクロイヌとかヤタガラスってなんだよ。とりあえず無視するわけにも行かなくて答える。

「ああ、見える、けど、あんたは何者だ?なんでここにいる?それと俺の名前は伏見で合ってる」
「伏見さんなんですか!あーえっと、僕は幽霊です、その証拠にホラ」

男が伏見に平手打ちをするように手を振り翳したが本来受けられる衝撃は無く、こいつ本体が本当に透けているのだと証明される。

「ね、何にも触れられないんですよ僕」
「…なんでここにいる?」
「ああ、僕ここで死んだんですよ。正しくはここにあった建物の中で。」

訳がわからないがとりあえず目の前にいる人物は本当に幽霊らしい。窓に手を入れたり出したりして遊びながら話すこいつを見ているとどんな感情を抱けば正解なのかわからない。

「地縛霊か」
「まあそんなとこです。地縛霊と違って色んなとこ彷徨えるけどここが拠点です」

拠点にすんな。迷惑だ。

「…さっき入ってきた連中にはお前は見えなかったのか?」
「はい。そーなんですよーだから脅かせないしつまんなくてぇ。ヤタガラスは少し物音鳴らすだけでビビってて面白かったですけど」

こいつの仕業か。つかヤタガラスって八田かよ。
楽しそうにケラケラ笑う幽霊。もしかしてこいつそんじゃそこらの悪霊より厄介な奴なんじゃないのか。面倒くさいという意味で。

「あ、僕の名前は五島蓮です。あだ名はゴッティーっていうんで呼んでもいいですよ。」
「誰が呼ぶか。俺は帰る。さっさと成仏しろ。」

これ以上話してても無駄だと察した俺はそそくさと理科準備室に向かった。
準備室の黒板にはきちんと3人の字でそば、カレー、グラタンと書かれていた。それを覚えてさっさと消し、帰ろうと踵を返せばさっきの幽霊が。

「うわぁ!?なんだよ!」
「僕も連れてって下さい!つーか憑かせて下さい!」
「はぁ?嫌に決まってんだろさっさと成仏しろ」
「それが出来たらやってますってー!お願い!300円あげるから!」
「いらねーよ!」

半ば無理矢理突き放して走り去る。勘弁してくれ。





「お、帰ってきた!」
「遅かったな」
「猿!おい!なんかいたよな!?絶対いたよな!?」

八田の体調は元通りになっているらしく、ピンピンしていつもの馬鹿でかい声でさっきの怪奇現象についてうったえていた。何事もなかったであろう道明寺と夜刀神はもちろん信じるはずもなく。とりあえず八田に同調するのは面倒なので適当な返事を返す。

「…別になんもいなかったけど」
「な?やっぱ伏見もなんもなかったんじゃんー。さっきからコイツ脅かそうとしてうぜーんだよ」
「なっ!本当だっつってんだろ!」
「体調が悪いと耳鳴りが起きるだろう。それと同じように幻覚を見たり幻聴を聞いたのだろう」
「違う!俺は本当に聞いたんだって!」

可哀相な八田。それもこれもあのタチの悪い青いコスプレ幽霊のせいだ。

「もういいから帰るぞ。そばとカレーとグラタンだろ。お前らひねり無さすぎ」
「ああー?そういう伏見は何が好きなんだよー!」



ーーーーーー……




家に着いて親と適当な会話を交わし部屋に入ってベッドに倒れる。疲れた。憑かれそうになった。

とりあえず憑かれなくてよかった。これから理科室行くたびあいつが見えるかもしれねーけどシカトしよう。見えない見えない……あー眠い……





「伏見さんお風呂入ってないのにおやすみですかー?うわー汚いー」

……は?


「!?!!?!」
「わ、そんな驚いた伏見さん生きてるときに見てみたかったなー」

驚きすぎて咄嗟にベッドの端まで後退り、距離をとる。なんでいるんだよこいつ。なんで隣で寝てるんだ気持ち悪い。今まで気付かなかったぞ。

「勝手に付いてきたのかテメェ」
「はい!憑いてきました!」
「面白くねーよ死ねよお前!」
「もう死んでるんですよーんふふ」

ふわふわと空中浮遊しながら飄々と答えるこいつに言い様のない苛立ちを覚えながら舌を打つ。するとふわふわした動きを止めて感動したような目で俺を見た。

「その舌打ち久しぶりに聞きました!生きてる時は忌々しいものでしかなかったですけど久々に聞くと恋しくなるものなんですね!」

なんなんだこいつは。とりあえず出ていけとやり取り(殆ど会話になっていないが)を交わしたがこいつが折れる気配は無く、仕方が無いので諦めて好きにしろ、と言い放った。

「今日だけだからな。明日からは俺以外の奴に付き纏え」
「んふふ、伏見さんやさしー」

最悪だ。憑かれた。
クソ、なんで俺なんだよ…

「伏見さんを選んだ理由はもちろん俺の事が見えるからですよ。あともういっこ理由があるんですけどーちょっと長いんですけど聞いてくれますー?」
「なんで俺の考えてること分かんだよキメェ…明日な」
「キモくないですしーえーちょっと伏見さんどこ行くんですかー?」
「風呂」

今聞く気力はない。とりあえず密室にいさせてくれ。一人の時間をくれ。

「ついてきても」
「よくねーよ死ね」


それから風呂から上がっても執拗に過去について話そうとする五島を適当に追い払い、睡魔に任せて眠りについた。明日になったらこいつがいなくなっているのを願って。





to be continue





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